人気アニメから考えるコンテンツとフォントの関係

坂本政則×有馬トモユキ×三原史朗鼎談

近年、アニメやマンガ、ゲームなどエンターテインメント分野のグラフィックデザインが注目を集めています。もともとファンの熱量が高い分野であり、コミケをはじめとする同人誌文化の盛り上がりとともに、プロのデザイナーのみならず、ファンの間でもデザインや書体に対する意識は年々高まっていると言います。そんな状況を受け、今回の特集記事では、これまでにアニメ関連の仕事を数多く手がけてきたデザイナーであり、また、TYPEのコントリビューターでもある坂本政則さん、有馬トモユキさん、「エヴァンゲリオン」や「キルラキル」をはじめとする人気アニメに使用された書体の数々を手がけるなど、この分野において確固たる地位を築いているフォントメーカー「フォントワークス」の三原史朗さんの3人に、アニメを中心としたコンテンツにおける文字をテーマに、鼎談して頂きました。
Text: 原田優輝

アニメの文字を扱うのは誰か?

ー坂本さん、有馬さんは、これまでアニメをはじめエンターテインメントの分野ではどんな仕事をされてきましたか?

坂本:僕はフリーランスになって間もない2000年頃に、音楽、アニメ、ゲームカルチャーに精通した、渡辺健吾さん、佐藤大さん(脚本家、現ストーリーライダース代表)率いるFROGNATIONという会社で、「カウボーイビバップ」というSFアニメに関わっていた嫁のツテで、劇場版「カウボーイビバップ 天国の扉」のWebサイトのデザイン、実装を担当させて頂いたんです。それを皮切りに、「攻殻機動隊SAC」や「エウレカセブン」、「サムライチャンプルー」などのアニメ作品のWebサイトを制作するようになりました。直近では「ギルティクラウン」ですね。

坂本政則(DELTRO)

「ギルティクラウン」Webサイト

有馬:僕ももともとWebの仕事をしていたのですが、並行して友人のイラストレーターの画集のデザインなどをする機会が多かったんですね。その流れで、友人づてにお声がけ頂き、アニメ関連のパッケージデザインなどをさせて頂く機会が増えていきました。そして、作品全体に初めて関わったのが、先日放映が終了した「アルドノア・ゼロ」で、この仕事では、ロゴからプロモーションツールのデザイン、本編に登場するグラフィックなどを担当しました。

有馬トモユキ(日本デザインセンター)

「アルドノア・ゼロ」 ©Olympus Knights / Aniplex • Project AZ

ーアニメ関連のデザインで影響を受けたものはありますか?

坂本:「エウレカセブン」「鉄コン筋クリート」などのグラフィックデザインを担当している草野剛さんや、「AKIRA」や「カウボーイビバップ」、「SHORT PEACE」などを担当しているMach55Go!の上杉季明さんの仕事は、毎回惚れ惚れします。タイポグラフィとビジュアルによる伝達強度が異常に高いんですよね。また、「COWBOY BEBOP 5.1ch DVD BOX」のパッケージでは、作品本編のエピソードと連動した豪華すぎるパッケージデザインなどもされていて、作品愛に満ちあふれています。アニメ作品としては、やはり「エヴァンゲリオン」ですね。

有馬:上杉さんや、「機動警察パトレイバー」のデザインを手がけた田島照久さんのお仕事を見て、自分もいつかこういうことがしたいと思っていました。あとは、やはり「エヴァンゲリオン」というのが、僕の人生を狂わせた大きな原因になっています(笑)。市川崑さん直系のタイポグラフィを用いた演出が話題になりましたが、もともと監督の庵野秀明さんは、「トップをねらえ!」の頃からタイポグラフィによる表現をしていて、それがエヴァで完全に開花したという感じでしたよね。

「新世紀エヴァンゲリオン」 ©カラー/Project Eva.

坂本:エヴァは友人から薦められて放送終了後まもなくレンタルビデオで見たんですが、初見の第一話ですっかり虜になりました。設定から文字演出、メカシズル、モニターグラフィックスなど作品中にさまざまなオマージュも隠されていて。当時はアニメから少し離れていた時期だったんですが、これでもう一度火が着いちゃいましたね(笑)。

三原:当時のアニメ業界では、アニメ制作会社は文字を扱わないというのが不文律だったそうです。作品に文字を入れるのは、編集プロダクションや現像所だけが行う仕事という暗黙の了解みたいなものがあって。「エヴァ」の制作会社様は、そうしたアニメ業界の古い慣わしを劇的に変えました。そうした影響があって、最近独立したアニメ制作会社などは宣伝物のデザインなどにも力を入れるところが増えてきていて、そのあたりはだいぶ変わってきているように感じます。

ーデザイナー以外でアニメの文字に関わるのは、アニメーション制作会社や編集プロダクションなどになるかと思いますが、書体を選ぶ時の基準や要望はそれぞれ違うのですか?

三原:そうですね。制作会社様の場合は、具体的な書体が云々ということよりも、例えば現代が舞台の作品であれば、実際に街で使われている看板や駅のサインに近い書体はどれかということを聞かれたりすることが多いですね。逆に昭和の時代が舞台であれば、国鉄で使われていた方向幕のフォントがほしいと言われることもありますし、特定の商品のパロディをつくるので同じ書体を使いたいという要望なんかも多いですね。

三原史朗(フォントワークス)

キャラクター化するタイポグラフィ

ーエヴァンゲリオン以降、フォントという観点で印象に残っている作品にはどんなものがありますか?

有馬:やはり「キルラキル」ですね。この作品では、テロップのほとんどがフォントワークスさんの「ラグランパンチ」で統一されていますが、デザインを担当したTGB design.の市古斉史さんが文字詰めやテクスチャなど最低限のルールを設定し、基本的には誰が使ってもデザインのクオリティが担保されるようにしたということが革命的だったと思います。アニメ制作の現場では、テロップなどは納品の数時間前に入れられるケースが多く、グラフィックデザイナーとしてそこに入っていくのが難しいところがある。だからこそ、こうした仕組みを設計することで、作品のクオリティをデザインサイドから底上げできたというのは非常に大きかったと思います。

坂本:同意です。TGB design.さんは、作中の液晶ディスプレイでビットマップなモニターグラフィックスも手がけられてますよね。「サマーウォーズ」のOZの設定デザインも素晴らしかったです。一方で、有馬くんが手がけた「アルドノア・ゼロ」では、「A/Z」表記を筆頭に、デザインシステムを記号化し、分散させることで全体にまとわせることに成功している。また、それらを作品の上流部分から機能させながら、Webをはじめとしたプロモーションツールに至るまで全方位しているっていう(笑)。細かい話、作品本編のモニターグラフィックスひとつとっても「Helvetica Neue」や「DIN」などが持つタイプフェイスが持つ印象が与える影響も大きく、かつ演出上効果的に機能するんですよね。

「キルラキル」 ©TRIGGER・中島かずき/キルラキル製作委員会

三原:フォントメーカーという立場で言うと、コンテンツとフォントが結びつくことは非常にありがたいことです。「キルラキル」の「ラグランパンチ」にしても、現行の「ラグラン」が、あるサイズ以下ではつぶれてしまい、テレビなどで使いづらいという相談を放送局様から頂きました。その対応策として、視認性を高めるためにつくった書体だったのですが、それがいまや、エヴァの「マティス-EB」と並ぶ弊社の顔になっています。これは私個人の意見ですが、「良い書体」と「売れる書体」は別物なのかなと思っています。「売れる書体」というのはあくまでもおふたりのようなグラフィックデザイナー様によってつくられていくものだと考えていて、人気アニメで効果的に使って頂くと、放映直後や、コミケの開催時期の前には、お客様からのお問い合わせが非常に増えるんです。そういう意味でグラフィックデザイナー様は、フォントメーカーの可能性を広げてくれる存在だと言えるし、第3、第4の「マティス」「ラグランパンチ」をぜひつくっていって頂きたいなと(笑)。

有馬:フォントワークスさんの 「LETS」 が出てきて、多くのフォントが個人でも手に届く価格で使えるようになったことで、プロと一般の人たちが同じ土俵に立つようになりましたよね。特に同人誌などをつくる人たちにとっては、革命のための武器を手に入れた感覚があるのではないかと思います。

坂本:それ絶対三原さんの営業力の賜物ですよね(笑)。クオリティの高いフォントが世の中に流通しやすい状況が整備されたことで、土台が大きく底上げされた気がします。

「アルドノア・ゼロ」 ©Olympus Knights / Aniplex • Project AZ

有馬:「アルドノア・ゼロ」では、ハイビジョン画質になり、スクリーンでも細い書体が使えるようなったことを踏まえ、「TP明朝」を見出しやテロップに使ったのですが、それだけで作品全体のクオリティが底上げされるし、できることが段違いに変わるんです。また、最近は、好きな作品にどんな書体が使われているのかを知りたいという欲求がファンの間で非常に高まっています。「アルドノア・ゼロ」では、僕がつくった「A/Z」というアイコンをワッペンでつくり、写真をネットに上げていたロシア人のファンがいたんですね。これは非常に象徴的な出来事で、アニメの世界において書体というのは、キャラクターになりつつある気がしています。「ラグランパンチ」を使えばなんでも「キルラキル」に見えるという話にもつながりますが、ファンが真似しやすいもの、つまり「真似されビリティ」のようなものが、これからは大事になるのかなと。「A/Z」という略称アイコンも、まさにそうした考えからつくったものでした。

三原:これはゲームメーカーのデザイナーから聞いたのですが、現代社会が舞台のあるゲームシリーズの中で、過去の時代が舞台になった作品が出た時に、それまで使っていた丸ゴシックを、作品の設定に合わせて楷書体に変えたそうなんですね。そうすると、「私の好きな声優の◯◯さんは、こんな文字で話さない!」とファンからクレームがあったそうです。つまり、その人の中では、声優とフォントが結びついているということで、非常に興味深かったです。エンドユーザーの書体に対する意識は、デザイナーが意図しないところにまで広がっているんだなと。

坂本:わかりやすい例ですね。フォントは声色、口調、声量といったキャラクター性をまとっていて、人はそれを無意識レベルで察知しますから、選定はとても重要です。

フォントワークス「LETS」

エンタメ領域における文字の課題と可能性

ーさまざまなメディアに展開されることが多いアニメやゲームの世界では、書体の権利問題なども色々ありそうですね。

三原:そうですね。例えば、書体をロゴとして使う場合など、フォントの許諾の範囲についてお問い合わせを頂くことは多いです。そもそもフォントの使用許諾については、フォント業界で統一の基準を設けているわけではありません。しかし、我々としては、なるべくデザイン以外の部分で選択肢を狭めたくないという思いがあり、「LETS」にしても、より書体を身近に感じて頂き、どんどん使ってもらいたいという考えがベースになっています。また、アニメがDVD、ゲーム、小説、フィギュアなど幅広く展開していく中で、次はWebフォントが重要になってくると考えています。

坂本:欧文のWebフォント普及率はここ数年で劇的に上がりましたよね。間違いなく今後さらに重要になってくると思います。日本語については、欧文と比べて段違いに大きなファイル容量に対しての表示の仕組みを、サービスとして完全にストレスフリーで体感できるところまで技術向上してほしいと切に願っています。デバイスフォントで表示することに比べて、間違いなく余分にデータを読み込む必要があり、サーバー側が固まるとページ自体が表示されなくなってしまうことや、料金体系の問題もあり、クライアントにメリット/デメリットから検討してもらった結果、見送りということがまだ多いです。フォントの重要性をきちんと認識してもらうこと以上に、日本語についてはインフラ整備がとにかく重要な状況ですね。

「キルラキル」 ©TRIGGER・中島かずき/キルラキル製作委員会

有馬:坂本さんがおっしゃるようにまだ規制も多いですが、コンテンツが多岐にわたって展開されていく中で、それらをひとつの体験に統合していくためにWebフォントというのは有効だと思います。さらに言うと、今後はますます企業のVIをつくるような感覚が、アニメのデザインにも求められてくる。その時に、例えば可読性を度外視したとも言える「キルラキル」の「ラグランパンチ」のように、ユニバーサルな方向に進んでいる企業のVIなどとは違い、より自由度の高い選択肢があるがエンターテインメント分野の面白いところであり、非常にやりがいのある仕事だと感じています。

坂本:全くその通りです。フィクションであることの自由度の高さは、それ自体に創造可能な領域が広がっていて、世界設定のほんの一部として企業のCIデザインが溶け込んでいたり、未知のインフラやインターフェイスを創造したりと多岐にわたります。どこまで想像が及ぶかによってスクリーン上におけるリアリティが全然変わってきます。作品を体現するような、キャッチーな文字演出まで実現できれば、「新しい基準」をひとつ築けるのだろうと思います。もしまたエンターテインメント分野のプロジェクトに関わる機会を頂けるのであれば、有馬くんの「アルドノア・ゼロ」に匹敵する手数で挑みたいですね(笑)。

三原:フォントワークスが、これだけアニメやゲームの分野に進出しているのは、当初から考えていたことではなく、私をはじめとした一部の社員の趣味から広がっていったところが大きいんですね。個人的にも、自分が好きなコンテンツには弊社のフォントを使ってもらいたいという情熱がありますし、そういうコンテンツをつくる人たちが最初に手に取ってくれるフォントカタログは、弊社のものであってほしいと願っています。何を良い書体と感じるかは人それぞれというところがあるので、私たちとしては、権利関係やインフラの部分などのハードルをできる限り下げ、より使いやすいフォントというものをプロだけではなく、すべての方々に提供していければと考えています。

「エヴァンゲリヲン新劇場版:序」 ©カラー/Project Eva.

Information

有馬トモユキさん初の単著『いいデザイナーは、見ためのよさから考えない』が、講談社より発売中。

TYPE Q&A

Q. あなたの好きなフォントBEST3は?

坂本 : Univers、Futura、Frutiger。これとは別で、UniversとHelveticaに影響を受けた自作フォントのDeltro、Deltro Neueも上げておきたいです。

有馬 : Replica, Roboto, Rotis

三原 : ライラ、ハミング、筑紫アンティーク明朝

Q. "タイポ買い"したプロダクトはありますか?

坂本 : 以前の特集 で「Copal Quartz Flip Clock」をあげたのですが、造形も含まれてるので厳密な"タイポ買い"ではないんですよね。オリベッティのビンテージ・タイプライターも打刻する文字自体に惚れてましたが、これも造形ありきですね…。

有馬 : SIGMA dp2 Quatrro というカメラは、「当たりが出たら100点、でも当たるのが難しい」類いのカメラで、正しく使いこなすのが本当に難しいです。しかし、レンズや本体の刻印が本当に美しく、筐体のデザインも相まってうれしい一品です。刻印周りは佐藤卓さん、筐体は岩崎一郎さんによるもののようです。 また、最近出たApple Watchには、Appleが社内で開発したサンセリフ「San Fransico」が使われているようです。この出来栄えを見てみたかったのが、主な購入動機になっています。

三原 : 講談社BOXシリーズの「化物語」。本文に「筑紫明朝」が使用されており、また、使用フォント名の記載もあったため。同作品は、フォントを使用されていることからタイポ買いしたのがはじまりだったのですが、作品自体の面白さにはまっていって、アニメ作品も観るようになりました。さらに、続編アニメで使ってもらえるように、制作会社に営業に行きました。

Q. 自分をフォントに例えると?

坂本 : たぶん太ゴ

有馬 : 本当は「Neue Haas Unica」のように名門同士の混血と言いたいところですが…。やたらと嫌われてしまうけど、ちゃんと望まれるべくして作られ、きちんと仕事もこなす「Arial」のようになれればいいな、と思います。

三原 : 「筑紫アンティーク明朝」。この書体は、明朝体ながらも、明朝体特有の正方形をあまり意識しない独特のデザインで形成されているのですが、私も、枠にとらわれすぎない、柔軟な性格かなと自分では思っています。

Q. もし遺書を書くとしたら、どんなフォントを使いたい?

坂本 : 手書きです。使うなら「こぶりなゴシック」

有馬 : せめて楽しくと思い、「DIngbat」などいかがでしょう。とはいえ、法律的に許されないと思いますので、和文の「TP明朝」ローコントラストを使いたいと思います。僕がいなくなってしまう頃、Type Projectさんの書体を古く思うか、まだちゃんと新鮮に見えるか、子供たちに尋ねてみたいです。

三原 : 「グレコ」。やはり楷書系かなと。

Q. あなたにとってタイポグラフィとは?

坂本 : 受け手/作り手の立場で、日々日常的に伝達強度や造形美に翻弄される、趣味と仕事をつなげる存在

有馬 : 言葉を心に変えてくれる、僕にとっては数少ない表現の手段です。

三原 : 仕事、生活、趣味。それらすべてを結びつけてくれるもの。

(左)坂本政則

DELTRO INC.代表取締役。アートディレクター、デザイナー。1972年静岡生まれ。1999年よりフリーランスとして活動を開始し、以後、企業、ファッション、アニメ等様々なジャンルのアートディレクション、デザイン、プログラミングを担当。2009年に村山健と共に株式会社DELTROを設立。メディアやデバイスを限定しないデザイン+テクノロジーによる表現と、物事の本質と感動を伝えるべく活動を続けている。カンヌ国際広告賞、クリオ賞、One Show、TIAAなど国内外の広告賞を多数受賞。クライアントワーク/プライベートワーク問わず、オリジナルタイプフェイスの制作を積極的に行っている。

(中)有馬トモユキ

複数社を経て、日本デザインセンターにてWeb、UIの領域で従事する傍ら、TATSDESIGN名義でグラフィックデザインを中心に商業コンテンツ作品とそのプロモーションに関する活動を展開。2011年よりクリエイティブグループGEOGRAPHICディレクター。2012年より朗文堂・新宿私塾にてタイポグラフィにおける複数メディアへの定着と実践をテーマに講師をつとめる。

(右)三原史朗

LETSプロジェクト マーケティング本部部長。DTP系販売店を経て、2000年にフォントワークス入社。放送業界、ゲーム業界などデジタルコンテンツ全般の営業活動、サポート業務に奔走する。